京都家庭裁判所 事件番号不詳 決定
少年 D(昭和一一・八・一五生)
主文
本人を昭和三四年八月一四日まで○○医療少年院に継続して収容する。
理由
本件申請の要旨は「本人は昭和三〇年一一月一九日広島家庭裁判所において窃盗罪により医療少年院に送致する旨の決定を受けて同月二〇日より○○医療少年院に収容せられたが、同三一年一一月一八日を以て少年院法第一一条第一項但書所定の一年の期間を満了することになつたため同少年院長より収容継続の申請をなし、同裁判所において同年一二月四日付で昭和三三年五月一八日まで継続して収容する旨の決定があつて現在まで収容保護を加えて来たものである。
然るところ本人の実父Bは前記初回の収容継続の申請に当つて今後一年間の余裕があれば家庭環境を改善して本人を引取る旨約していたのに拘らず当少年院においてなした退院予定の通知に対する回答もなさず、家庭環境の改善は全くなされていない状態であり、加うるに本人は重度の精神薄弱者であつてその後の矯正教育はその効果が挙つていないためこのまま社会に復帰せしめるならば再び非行を犯すことは明白であるので、なお収容保護を加える必要がある」と言うのである。
よつて案ずるに、一件記録に徴すれば少年が昭和三〇年一一月一九日広島家庭裁判所において医療少年院送致決定を受けたこと及びその後の経過については上記申請理由のとおりであるところ、少年院法第一一条の規定の趣旨は少年保護の目的に立脚するものであるから、同条第二項の実質的要件を充足し且つ少年の保護の目的を全うするに必要である限り二三才に達するまでは繰返して収容継続をなすことを許すものと解するのが相当である。
そこで上記実質的要件の有無につき検討してみると、本件調査並びに審理の結果によれば、本人の性格、資質及び院内の生活状況について、本人は行動観察による知能指数三〇位の重度の精神薄弱者であるが、性格的には格別の偏倚は認められず教官の命令には素直に徒つて、殊に前回の収容継続以後は盗癖、暴行等の格別の事故なく(尤もこの点は重度の精神薄弱者に通有するものと考えられる)、昭和三一年一一月からは処遇の最高段階である一級の上に達して現在では年長で収容歴も古く世話好きなところから知能指数により分類せられた最下級の次段階の室で部屋長を勤めていること、他面上記の如き知能的欠陥から単純作業についても適応力を欠き家蓄の世話を暫時試みさせたこともあつたが能力がないため中止させた程で作業能力は殆んどなく、適切な保護者の庇護の下で生活するのでなければ到底社会生活に堪えうるものではないこと、然しながら前回の収容継続決定の前後を比較するならば漸次社会的適応性を得つつあり在院成績も向上を示して来たことなどが認められ、また本人の受入態勢について、本人は三才の頃両親が離婚して以来実父継母の下に育てられたが、本人に対する監護も不行届のまま非行を重ねるに至つたもので、継母は本人に対する愛情に乏しく、もともと初回の収容継続決定に当りその期間を一八ヶ月と定められた所以のものは、継母が本人の帰住について不服を唱えており本人との折合が極めて悪いことから実父においてこの間の調整を一年の間になすこととして上記の期間が定められたものであることを推認するに難くない。然るに家庭の現況をみるに実父はその後原子爆弾被爆による原子病が再発して昭和三三年四月八日から広島原爆病院に入院して退院の見通しは全く予測しえない状態で、継母も夫の入院により本人引取についての義務的感情は芽生えているものの家業の継続も困難になつて経済状態も逼迫し同年五月頃からは失対人夫として稼働することを余儀なくされて本人の引取を拒絶しまた事実上も不可能な状態にあること、更に帰住先たる広島県下唯一の社会施設である西志和農園においても定員上収容の余裕がなく、他にも本人の保護を委ねるべき社会資源がないためむしろ本人の受入態勢は初回の収容継続の際に比すれば著しく悪化していることが認められる。
叙上の事実を綜合すれば、本人の院内における収容経過は比較的良好であると解せられるけれども、本人の低知能、前歴、社会的適応能力等を考慮すれば、上記の如き受入環境の下で今直ちに社会に復帰せしめるとすれば、積極的、計画的な非行に走るおそれは認め難いとしても、衝動的、短絡的に窃盗その他の非行に陥るおそれが充分認められ、受入態勢の不満と相俟つて畢境本人の犯罪的傾向は未だ退院させるに適するまでには矯正せられていないものと言わねばならず、而も本人の在院成績が社会性賦与の面で漸次向上を示してきたことは前記のとおりであるから本人を更に継続して収容することはその保護の目的を全うする所以であると思料せられる。而してその期間は上記現在の家庭環境、実父の病状に対する今後の見通し、仮退院による保護観察の期間等を考慮すれば、本人が二三才に達するまで、即ち昭和三四年八月一四日までと定めるのを相当と認められる。よつて本件申請は理由があるのでこれを認容することとし少年院法第一一条第四項に則り主文のとおり決定する。
(裁判官 吉井直昭)